「原発テロ」批判

たんぽぽ舎からの記事を少し長いが以下に転載する。詳細はタンポポ舎のサイト

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「原発に対するテロ攻撃の想定」批判

 超管理国家の出現

 以下は、毎日新聞2005年1月13日付けの記事の一部である。

「経産省:原発職員の素行管理 「借金」などテロ防止で検討」
 経済産業省は13日、原子力発電所など核関連施設へのテロ対策
として、内部関係者による情報漏えい、破壊活動を防ぐため、関連
する従業員の借金状況やアルコール・薬物依存性の調査、犯歴情報
チェックなどの個人情報の管理を国の核物質防護対策に盛り込むこ
とを検討していることを明らかにした。(以下略)

 この前年7月には、読売新聞が「原子力施設テロ対策、民間人に
も守秘義務拡大へ」とする記事を掲載している。
 「原子力施設への攻撃や、核物質の強奪・盗難といったテロ活動
を防ぐには、施設の詳細な配置図、核物質の運搬計画、警備態勢な
どの情報がテロリストへ伝わらないよう、管理する必要がある。し
かし従来は、こうした秘密を外部へ漏らしても、罰則の対象となる
のは主に国家公務員法が適用される関係者だけだった。」
 「2001年の米同時テロ後、核物質や放射性物質を悪用するテ
ロへの警戒感が国際的に高まり、政府は防護体制の強化を決定。
 そのためには、重要秘密の漏えい防止を徹底することが不可欠と
判断した。」
 もはやロベルト・ユンクが警告した「原子力帝国」は、急激な速
度でこの国に拡大している。
 都合の悪い情報は「テロ対策」を名目に、いくらでも隠すことが
出来るようになりつつある。
 市民や自治体防災関係者にとって重要な核燃料輸送情報は秘密と
され、もし事故が起きてもなすすべさえない。
 一般見学さえも厳しい規制がかけられており、再処理工場の見学
は事実上不可能、あるいは参加者の全名簿を事前に提出するよう求
められる。そのような名簿が公安当局に流れていると考えるのが自
然である。
 既に「テロ対策」を名目とした超管理社会は批判の起こりにくい
電力会社や原子力産業には持ち込まれている。ついでに言えば、防
衛・宇宙産業にも同様である。次の段階は市民への強制であるが、
これにはもう一段階大きな脅威を煽る必要がある。

 過去の原子力施設攻撃例

 史上、原発を含む原子力施設への軍事攻撃は過去に3例ある。
 1981年のイスラエル空軍機による建設中のイラク原発(タン
ムーズ2号炉)攻撃、91年湾岸戦争による米軍などの攻撃、そし
てイラク攻撃時の原子力施設への攻撃である。
 いずれも攻撃を行ったのは強大な正規軍を持つ軍事大国であり、
攻撃を受けたのはイラクである。
 イスラエルによる81年6月7日の攻撃は「バビロン作戦」と呼
ばれ、F15,F16戦闘攻撃機による2000ポンド爆弾を使っ
た爆撃で、バグダッド南方18キロ地点にあるトワイサ原子力施設
に建設中のフランス製原発を完全に破壊した。
 91年の湾岸戦争では、トワイサ他十数カ所の原子力施設を爆撃
し、全体の20%以上を破壊したとされている。
 今回のイラク攻撃でも原子力施設が攻撃対象とされた。
 ジュネーブ条約第一議定書ではダム攻撃と同様、原子力施設への
攻撃を禁じている。
 このような攻撃が行われれば、大規模な環境破壊を招き、市民に
重大な影響を与えるからである。
 しかしイスラエルも米国も、国際法違反の攻撃を堂々と行ったの
である。このような攻撃に対して、国連安全保障理事会や国連総会
では繰り返し批判が出され、国連決議も行われているが、常にそれ
らを無視して行動してきたのが米国とイスラエルであった。
 トワイサ周辺では、イラク攻撃直後の略奪で放射性廃棄物などが
拡散し、多くの住民が被曝している。原子力施設が戦争に巻き込ま
れれば、どんなに悲惨な事態となるかを物語っているが、これらは
いわゆる「テロ攻撃」によったものではないことに留意する必要が
ある。
 日本周辺諸国で、これまで海を超えて原子力施設攻撃を実行する
能力のある国はソ連くらいであった。しかし「核戦争3分前」と言
われた米ソ冷戦時代においてさえ、日本の原子力施設がソ連の攻撃
を受ける恐れがあるという想定はなかった。
 今日、ロシアが日本の原子力施設を攻撃する可能性があるという
のだろうか。
 日本の原子力施設を「どこかが」攻撃するという想定自体が、あ
まりにも荒唐無稽である。

 突然降ってわいた「原発テロ対策」

 では「原発テロ対策」は無意味なことなのだろうか。もちろんそ
うではない。「原発テロ対策」を必要とする者たちが存在するので
ある。
 特に朝鮮半島有事体制下においては、日本は米軍と共同で朝鮮半
島への攻撃に参加をしかねない。そのときに後方に当たる国内は、
高度な軍事体制下に置かれるのであるが、特に原発のある地域一帯
は戒厳令下に置かれることになろう。いわずとしれた、テロ対策を
名目として反戦、反原発、人権、教育、民主主義、あらゆる運動を
組織する個人、団体を規制するためである。
 9.11以後、原発の沖合には海上保安庁の巡視船が「常駐」し
ているが、それが自衛隊の護衛艦に取って代わられ、陸上の検問態
勢も強化される。
 今、そのような状況に備える訓練を突然始めれば、いくらなんで
も「刺激が強すぎる」わけだが、「テロ対策」と言えば何でもまか
り通る世の中になっている。
 従って、常に原子力施設には「テロの脅威」が無くてはならない
道理なのである。
 しかし考えるまでもなくおかしな話である。
 日本海沿岸に原発が立ち並び始めるのは1970年以降。最盛期
は80年代である。
 そのときのほうが大陸側は日本に「敵対的」ではなかったか。最
大の「仮想敵ソ連」は在日米軍基地に核弾頭を向けているのは間違
いなく、定期的にバックファイアーがやってきていたし、朝鮮半島
では何度も小規模な武力衝突があり、北も南も軍事独裁政権で、中
国もまた核武装国となり、ベトナム戦争などアジアでの戦争は続い
ていた。
 しかし日本政府も電力会社も、実際に「脅威」だと思っていたの
は反原発運動であり、海の向こうからの武力攻撃など「あり得ない」
としてきたのではなかったか。
 いまになって原発の3分の2は日本海沿岸にあるという現状に、
誰か責任を取ったり遺憾の意でも表明しただろうか。
 このような論理的整合性を欠く構造にこそ、そこに秘められた真
の目的が埋め込まれていると考える必要がある。(米国のアフガン
攻撃やイラク攻撃は資源戦争であり、真の目的を隠すためにこれを
対テロ戦争ということにした、などは今ではよく知られた事実であ
ろう。そのために9.11でさえ自作自演の疑いがあるのだ。)
 自由を抑圧し、市民の活動を抑え込むのにこれほど好都合な構造
は無いだろう。
 冒頭に紹介した原子力産業従事者への監視体制作りは、次に市民
へと向けられる。
そうして戦争が出来る国家体制作りへと突き進んでいくのである。

 原発を廃止することこそ唯一の防災

 別に「テロ攻撃」が原発にとって最も危険なことではない。
 浜岡原発は、東海地震の予想震源域の真上にある。どんな爆薬よ
りも巨大な力が、浜岡原発を襲うのはもやは時間の問題である。
 それは他の原発も同じだ。
 マグニチュード7.5を超える宮城県沖地震は30年間で95%
の確率で起きると考えられている。そのときに女川原発では、設計
時に想定されていなかった巨大な揺れに襲われる。耐震設計に不備
があり、宮城県沖地震では想定以上の大きさの揺れに襲われるので
ある。同様に六ヶ所再処理工場では三陸沖や十勝沖地震で重大な影
響を受けるであろう。
 日本では、原発テロどころではない危険を抱えて今日も原子力施
設は稼動している。
 そのような現実を前にすれば、美浜原発の「テロ対策訓練」など
は茶番劇も甚だしい。
 ご都合主義の「テロ対策訓練」をするのであれば、もっとまとも
に原発震災に取り組んだらどうか。いや、真の防災は即刻原子力施
設を全部止めることなのである。